review 書評
オトン、サッカー場へ行こう!
”俺達の街”から生まれたチームが父子にもたらす小さな奇跡の物語。
それはフットボールが持つ、温かな力だった。
父は定年後、以前の威厳はどこへいったのかすっかり家にこもりがちになっている。
子は地元の北九州を離れ、東京でサッカーライターを営んでいる。
厳格で強かった父。昔から仲が良かったわけではない。むしろ反発した。
しかし、家にこもる小さな父など見たくはない。
父を父たらしめる何かを持っていてほしい。
この想い、誰しも共感できるのではないだろうか。
著者であり子である吉崎エイジーニョは「何か」の可能性をフットボールに求めた。
父子が育った北九州という街で産声をあげ、JFLを戦うニューウェーブ北九州(現J2、ギラヴァンツ北九州)に夢をのせた。
父とスタジアムに足を運び、地元のチームに声援を送る。
二週間に一度やってくるホームゲームは、父の生きがいにはならないだろうか。
息子の大いなる仮説を出発点に、物語は始まる。
ホームゲーム、アウェーゲーム、コアサポーターとの交流、選手との触れ合い・・・
意地を張りあう親子ゲンカと、お互いを気遣う優しさが織りなす物語はフットボールの至るところで展開され、いつの間にか読者を父子と北九州の味方にしてしまう。
天皇杯を勝ちあがり、J2仙台に挑む場面では父子とともに心を躍らせながらページをめくる自分に気がついた。
父子の物語はチームの成長が加速し始めた頃と重なる。
成長過程のチームは「近い」。チームが近い。選手が近い。
クラブハウスはただのロッカールーム、練習場は地元の陸上競技場ということも珍しくない。
だからこそ、手が届く。話せるし、触れることができる。
事実、“オトン”がサッカーに急速に心を寄せる一因もここにある。
フットボールが、スポーツが、人を引き付ける魅力であり温かさである。
「試合見に行こうか?」
この言葉に世代は関係ない。
本書を手に取り、街にスポーツがあるというきっかけがもたらす、温くてユーモラスな泣き笑いと小さな奇跡の積み重ねを感じていただきたい。
(石島啓太=文)
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