review 書評

  • 2010年1月28日

夢の中まで左足

 名波浩はサッカーを言葉で表現する能力において抜群に秀でた人物である。
 サッカーにおける創造的な部分、ファンタスティックな部分を的確に表現してくれる。
 
 普通の選手が「感覚」や「経験」あるいは「なんとなく」と答えてしまうところを、優しく、インテリジェンスに富んだ言葉で表してくれる。一つの時代において最も創造性のあるパスをその左足から供給しつづけてきた男の言葉だけに説得力もある。

 本書では「名波の言葉」を存分に楽しむことができる。
 現役最後の一年をインタビューで追いながら、対談を交え、名波浩のサッカー観、歴史、怪我、感覚を彼の言葉で紐解いていく。

 藤田俊哉との対談では史上最高のコンビを長年にわたって彩った二人のサッカー観、歴史が物語られる。もちろん、黄金期のジュビロ、N-BOXについても語られる。

 山口素弘との対談では98年フランスワールドカップを戦った日本代表が、とりわけ中田英寿と形成したトライアングルの呼吸が蘇る。

 桜井和寿(Mr.children)との対談は一見意外だが、ぜひ一読していただきたい。
二人は私生活でも家族ぐるみの付き合いを持ち、尊敬しあう仲だという。俯瞰でものを捉え、通常では見えないところを突き、人の心を動かすという共通の力を持つ二人。お互いがお互いに刺激を受け、語る様はそれこそ名波のサッカーのように全体を見渡し、立体で物事を捉え、サッカーを、音楽をより広い視野で考えさせてくれる。桜井和寿もまた音楽を言葉で表現する能力において抜群に秀でた人物であり、二人の「哲学者」の会話には羨望すら覚える。

 今なお最強の呼び声高いN-BOXを操る感覚、「足りないものを探しに行く」という言葉を残し旅立ったイタリアでの経験、選手生命を脅かす右ひざの怪我との付き合い、C大阪での残留争い、ベルディでの立場、そして最後の一年、ジュビロでの日々。取り上げるべきトピックには事欠かない。

 サックスブルーの本書を手に取り、名波の言葉を存分に堪能してほしい。

(石島啓太=文)


名波浩 夢の中まで左足
名波 浩 増島 みどり
ベースボール・マガジン社
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