[塾生]本田千尋

  • 2011年12月9日

[Jリーグ]Jリーグという憂鬱


 アルゼンチンから帰国した。コパ・アメリカから帰還した。乾いた真冬の南米から、湿気がベトリと纏わりつく日本へ。その足で、等々力陸上競技場へと向かった。確かめたかった。比べたかった。コパの熱情と、Jリーグの情熱とを。

 Jリーグのことを考えると、少し憂鬱になる。発足から20年近く経った。が、このところ、上手く未来を見通すことができない。
 Jリーグ2011年シーズンは、柏レイソルがJ1を制圧した。黄色い太陽が燦然と輝いた。
 柏は素晴らしいチームだった。これぞフットボーラーとでも呼ぶべきレアンドロ・ドミンゲス、熟練の北嶋秀朗を筆頭に、アタッカー田中順也、いぶし銀の澤昌克、夜道で決して出会いたくないジョルジ・ワグネル、栗澤僚一、大谷、近藤、増島、菅野、とFWからGKまでクオリティの高い選手が、名将ネルシーニョの下、Jのピッチを鮮やかに駆け抜けた。
 中でも右サイドバックの酒井宏樹に、心を奪われた。
酒井を初めて見たのは、初夏の国立競技場だった。小雨は降りしきり、相手の浦和サポーターが反対側のゴール裏で圧倒的な赤い力を示し続ける中、酒井は黙々と自陣ゴール前でアップを続けていた。
 一発で、目を奪った。酒井からは、何かが立ち昇っていた。ある人はオーラと呼び、ある人は闘志と呼び、ある人は可能性と呼ぶ、何かが。大津祐樹を目当てにして国立に足を運んだつもりが、気付けば酒井にノック・アウトされていた。
 酒井が右サイドに産み出す魅惑のダイナミズムは、観る者の心を鷲掴みにする。酒井にはこう言いたい。早く欧州に飛び込め。2014年、W杯の初戦、光輝くピッチに立っているのは内田篤人ではなく、酒井宏樹だろう。
 そのとき柏に屈した浦和は、最終戦でまたも黄色い太陽に叩きの目された。
 今シーズンの浦和は不甲斐なかった。余りに不甲斐なかった。今後の浦和、Jリーグを考えれば、浦和レッズはJ2に落ちるべきだった。J2で、再度立て直しを計るべきだった。結局のところ、浦和は何がしたいのか。巖頭でJ1に踏み止まったが、何かが曖昧になった。
 そしてJリーグは、いささか浦和の観客動員力に依存しすぎてはこなかったか。ホームチームは、アウェイ側のスタンドに姿を現す浦和サポーターにチケット収入で頼っていた部分はなかっただろうか。 
 言い過ぎかもしれない。今シーズンはその浦和の観客動員すら減って来ている。しかし、Jリーグ全体が踊り場にあり、停滞気味だからこそ、来シーズンは浦和レッズ抜きでリーグの在り方を考えてみても良かったように思う。
 そしてそれは、浦和にとっても悪い話ではないだろう。J2に落ちたからといって、二度とJ1に上がって来ることが出来ないわけではないのだから。

 厚く雲が垂れ込め、湿気がベトベトとした等々力陸上競技場で待ち受けていたのは、水色の渦と、赤い情熱だった。川崎フロンターレのサポーターと浦和レッズのサポーターが産み出していたフットボールへの情熱は、僕がアルゼンチンで感じたフットボールへの情熱に、決して負けてはいなかった。
もちろん、僕が観たのはコロンビア×ペルー、ウルグアイ×ペルーといったカードで、アルゼンチン戦やブラジル戦といったカードはまた違ったのかもしれない。そしてピッチの中に限れば、やはりコパに劣る。
 それでも、コパ・アメリカに負けず劣らずの情熱が等々力にはあった。だいそれたことを言っているのかもしれない。しかし、発足から20年という時の流れが生み出したその情熱にもっと自信を持ってもいい。J1だけではなく、J2にも、JFLにも、徐々に情熱は拡がっている。その情熱がさらなる何かへと繋がっていくことに、期待したい。

 Jリーグのことを考えると、少し憂鬱になる。
 有能な若手はどんどん欧州に引き抜かれ、徐々に衰退していってしまうのか。
 それとも、余多いるサポーターの情熱に応え、アジアを代表し、世界に恥じないリーグへと発展していくのか。
 誰にも分からない。
 しかし憂鬱に物事を捉えるのは、さほど悪いことではない。
 憂鬱が殻を破れば、魅惑へと繋がり、太陽は燦然と輝く。
 J2を制し、そのままにJ1も制した、柏レイソルのように。

[塾生]本田千尋



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