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  • 2010年7月27日

鹿児島サッカー、蹴球維新の予感

 会場の一角から中孝介の「花」が聴こえてくる。
 鹿児島らしい選曲に100人はいた応援者たちから自然と手拍子が沸き起こった。
 アウェイ用のオレンジ色のシャツをまとった選手たちが入場するのに合わせて、長渕剛の「とんぼ」のイントロが合唱される。
 選手の名前がコールされ、「エフシー・カゴシマ」がコールされた。

 今年3月に設立されたばかりのチーム、FC KAGOSHIMA(以下FCK)は天皇杯予選でもある鹿児島県サッカー選手権大会の決勝進出をかけ、昨年の覇者であり本大会ではJのチームにも苦杯を飲ませた、鹿児島が誇る強豪鹿屋体育大学と対峙した。
 これぞ七月の青空、と言いたくなる紫外線たっぷりの日差しが照り、気温も30℃を超えている。
 ただならぬ試合になりそうな予感、期待が観客たちを包んでいた。

 前半13分、左サイドから侵入した鹿屋体育大学のMF桃井がそのまま豪快なシュートを、鹿屋体大OBのキーパー古田が守るゴールに叩き込んだ。
 先制ゴールを許したFCKが、今度は同点ゴールを奪うため相手ゴールへと攻め込む。
 日陰などどこにも見当たらない、激烈な日差しが肌を刺す。
 それでもFCKの社会人たちは、大学生以上に走り続けた。

 プレイングマネージャーの田上裕が常に前線で諦めることなくボールを追いかけ、チャンスを演出する姿を見つめる元ジュニアサッカーのコーチから、J2でも通用するよ、という感嘆の声が聴こえる。
 中盤の選手たちは主導権を握るべくボールに執着し、最後尾の選手たちは縦幅120メートルのピッチを何度も上下に疾走した。
「鹿児島にJリーグを」
「鹿児島をスポーツで元気にしたい」
 FCKの志は、J2のサガン鳥栖から加入した谷口堅三や、JFL経験者の愛甲光や内薗大貴だけではなく選手全員がプレーで体現していた。

 後半に入ってからも、押し込むが同点ゴールが奪えない。
 幾度も鹿屋体育大学のストライカー岡田の突破によって追加点を許しそうになりながらも、キーパー古田が奮迅のビッグセーブを連発する。

 残り時間はジリジリと削り取られていく。
 追加点を奪われるのか、同点に追いつくのか、このまま終わるのか。
 次なる展開が読めない。
 客席からはボリュームMAXの歌と声援が飛ぶ。
 女性の叫びが会場に響く。
 会場周辺の並木道を走っていた市民ランナーたちも、ただならぬ熱気に足を止め、試合に見入っている。
 このまま試合が終了しても、第三者にもFCKの情熱は伝わっていただろう。
 残り時間は5分を切ろうとしていた。

 FCK陣内から大きく蹴ったボールが高く、高く、飛ぶ。
 FCKの選手には到底追いつけない遠くへ飛んでいく。
 観客の視線は上空にあるボールに釘付けになった。
 視線とボールが地上へと降りてきたとき、鹿屋体育大学のキーパーかディフェンダーのどちらかが処理しているところが視界に入ってきた。

 一瞬、間があいた。
 オレンジ色の影が通り過ぎた。

 田上裕がボールをさらっていた。
 キーパーすらも置き去りにした田上は、誰もいないゴールに向けてボールを転がした。
 緊張感のかけらもなくボールはゴールラインを越えてネットに包まれる。

 いつの間にか三百人を超えていた観客たちの情熱が爆発した。
 こんなことが、こんなことが起こるのか。
 見知らぬ相手だろうと構うことなくハイタッチを交わし、叫び、歓喜を分かち合う。
 ゴールを奪った喜びが染み入るように田上はゆっくりと天を仰ぎ、力強く両拳を握りしめ、オレンジ色の群れに飲み込まれていった。

 結局、勝ち越しゴールを奪うことはできなかった。
 延長戦で、ついにFCKは力尽き、3失点を喫した。
 敗戦にも関わらず、大きな拍手が、あいさつに来た選手たちに送られる。
「入場料を頂いているわけではない、けれどせっかくの休日に、はるばる会場まで足を運んでくださる人たちのためにプレーしよう」
 常日頃から「観客主義」を唱える田上は汗と涙が交じる水分をぬぐっていた。
 公式戦8戦目にして初めての敗戦だった。

 けれど、最も巨大な情熱に包まれた激戦だった。
 試合を見届けたファンの誰もが、停滞する鹿児島のサッカーに、FCKがキャッチコピーとする新しい時代「蹴球維新」の可能性を感じていた。
 来週からはまた、J1から数えて5番目のカテゴリー鹿児島県社会人リーグの試合が待っている。

(小林浩宣=文)

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