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  • 2010年7月30日

[グループA 南アフリカ×フランス] the yellow flowers

 スタンドは青と黄のユニフォームで埋め尽くされている。黄がわずかに多い。鮮烈な日の光が照らしだす様は、透明な冷気の中、朝日を一身に浴びる湿原の中に咲くキスゲの群生のようである。
 凍える闇夜の死闘を経て、ようやく迎えた陽光が、いつもより眩しい。フランス代表は崩壊している。目の前のレ・ブルーは、試合のためにピッチに立つ。勝利のためではない。決勝トーナメント進出の可能性はまだ残っている。希望は心を動かし、血となり全身を駆け巡る。
 レイモン・ドメネクとは一体何者なのか。知性、哲学、覚悟、そのどれひとつとして備えていない。ドメネクはいつからフランス代表を率いているのか。今まで何をしてきたのか。何をフランス代表に、代表の面々に与えてきたのか。W杯期間中、エリック・アビダルは想う。「バルセロナでは幸せなのに」
 嫉妬、憎悪、悔恨、失望、絶望、混迷…この上ない舌触りがする料理を、ドメネクは振舞い続けてきた。あたかも超一流のシェフであるかのような振りをして。
 だがもうよそう。ドメネクは去る。ローラン・ブランが就く。
 南アフリカ代表には、フットボールへの情熱があった。フットボールへの、純粋で、ピュアな情熱があった。それはビジャ、イニエスタ、シャビを始めとするスペイン代表が抱き続けたものと、同様のものだった。
 その情熱をボールに乗せて、南アフリカ代表は攻め立てた。キスゲの花が風に揺れるようにシャバララがつなぎ、モコエナが動き、ピーナールがシュートを放った。前半20分にはクマロが頭で合わせ先制し、同37分にはムフェラがボールを力強くゴールへと押し込んだ。
 サッカーには神様がいる、とよく言われる。サッカーに対し真摯に取り組んでいれば、いつかフットボールの神様が何がしかの幸運をもたらしてくれる…。
 南アフリカの眼前に瓦壊したフランスが現れたことは、そうした意味での幸運と言えなくもない。しかしそれはあくまで機会でしかない。フットボールの神様はこうも言う。チャンスは自分たちの力でモノにしろ。
 いくら死に体とは言え、フランスはあくまでフランスである。フランク・リベリー、ジブリル・シセといった殺し屋のようなアタッカーが南アフリカゴールに襲いかかる。その度に、文字通り必死の形相で攻撃を受け止める。ボールを弾き出す。それでも、マルダにゴールを奪われる。
 得点に結びついたシーン以外にも決定機は幾度も訪れた。決勝トーナメント進出という観点からすると、南アフリカはチャンスをモノにした、とは言い難い。
 しかし誰が責められようか。死力を尽くした戦士たちを。
 誰が踏みにじられようか。力の限り咲く、キスゲの花を。
 
(本田千尋=文)

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