スポーツライター登龍門 present by 「朝日日刊インサイト」

  • 2010年7月7日

[ウィルチェアーラグビー]表と表

 コートには、二種類のゴミが落ちている。手袋の表面から削り落ちたゴムのかすと、車体から剥がれ落ちた微小の金属片である。車椅子ラグビーでは、タックルが認められている。だから、車椅子同士が激しく接触する度に、塗装が剥げ、金属片がコートに落ちるのである。もう一方のゴムのかすは、選手の走り方によるものである。より速く走るために、両手をタイヤに押しつける。タイヤを回すのではなく、押しつける。何度も何度も押しつける。よって、手袋も手のひらもボロボロになってしまうのである。
 峰島選手の手の平ひらは、驚くほど綺麗だった。
「選手によって走り方が違うから、マメのでき方って人それぞれなんです。僕はどちらかというと、マメはできにくい方なんですよ」
 試合中は、手袋を三枚重ねている。真ん中は、野球用のバッティンググローブである。
「もともとバットを握るためにものだから、片手でもボールが掴みやすいんです」
 チームは峯島選手にボールを集める。それは、峯島選手がハイポインターという役割を担っているからである。車椅子ラグビーでは、障害によってそれぞれの選手の役割が異なる。ハイポインターとは、チームに中で誰よりもトライ、すなわち得点をしなければならないポジションである。当然、相手チームのマークも集中する。ラグビーボールではなく、バレーボールを使用するので、ハイポインターはボールをわし掴みしながらトライを狙わなければならない場面が否応なしにやってくる。なにがなんでも得点しなければならない。ハイポインターに求められる姿勢は、サッカーのストライカーに求められるエゴイスティックなメンタリティだと思っていた。
「勝つために、一番大事だと思っていることは連携です。それは、4人のチームメート全員がまんべんなく得点をとるということではなくて、全員が連携して得点をとるということなんです。もちろん、僕はハイポインターとしての責任があるから、より多くの得点を狙います。でも、一人で相手のディフェンスをぶっちぎって得点を取っても、勝利には結びつかないと思うんです。ぶっちぎれそうな場面でも、あえてスピードを緩める。そして、上がって来た味方が作ってくれたスペースを見つける。一人よりも、二人で得点を狙った方が、成功率は高いんです。だから一人より、二人、二人よりも、三人、四人で連携してより確実に得点することが、勝つために一番大事だと、僕は思います。連携は、チームでも大事にしていることなんですよ」
 峯島選手は、安っぽいエゴイズムが勝利に結びつかないことを知っていた。と同時に、自分の出来が、チームの出来にそのまま直結するというハイポインターの宿命も十分に自覚している。
「日本代表の練習に参加させてもらったことがあるんですけど、自分の意識が変わるのがわかるんです。レベルの高い選手たちと練習することは、自分にもプラスになるし、チームにも必ずプラスになると思うんです。だから、チームで結果を出して、また呼んでもらいたいんです」
 峯島選手は、まだ日本代表に定着できていない。同じハイポインターとして乗り越えなければならない選手がいることも知っている。
 私は、思う。
 峯島選手には、エゴイストになってほしい。
 日本代表になるという目的の時だけ、限定でエゴイストになってほしい。演じるだけでもいい。個人よりもチームに重きを置く峯島選手ならば、自覚したエゴイズムがチームを、日本代表を引っ張る力になると思うからである。

(丹野洋一郎=文)

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