[塾生]西本匡吾

[特集]変わることのない坊主頭/国見高等学校 サッカー部


 国見高校サッカー部は、全部員が坊主、である。
部内の規則であり、入部するための条件となっている。これは、近年の高校サッカー部においては珍しい.。全国大会を見ても全部員が坊主の高校は、一大会、片手で数えられる程である。クラブチームの台頭もあり、サッカーという競技において、坊主は明らかな少数派の髪型なのだ。 
「なぜ、坊主なのでしょうか?」
 監督である高橋精一郎は「どうしてなんでしょうね」と笑い、続けた。
「勝利を目指していくための昔からの伝統ですね。先輩達が築いてきたものを、崩したくないのでね」
 サッカー部が坊主となったのは、小嶺忠敏の在任中の出来事であったという。
 1984年から2007年まで指導した小嶺は、在任中に6度の高校サッカー選手権優勝、5度のインターハイ優勝を成し遂げている。
 小嶺が就任した。坊主となった。サッカー部は躍進を遂げた。そして、強い国見は坊主である。84年から積み上げてきた歳月によって、プレーする生徒、憧れを持つ中学生、保護者、地域の住民、OBといった国見高校サッカー部に携わる全ての人にとって、坊主という髪型が部の象徴となっていった。 
 現在コーチを務める堀川は、「先輩方が作られた国見の伝統の上に私達がいるので、そこを崩すわけにはいかない」と言う。堀川は国見高校出身で、同期には大久保嘉人(ヴィッセル神戸)がいる。
 実を言えば、高橋をはじめ指導者側の個人的な考えとして、坊主頭に対して執拗なこだわりを持っているわけではない。しかし、一個人の考えだけで、伝統を変えることはできないのだという。
「僕たちは伸ばしてもいいんですよ。コーチはOBなので、髪を伸ばすか、伸ばさないかという髪型についてのは話します。しかし、長髪になったら国見ではないなって思ってしまう。そこは、伸ばしてもいいかなという気持ちはあるが、譲れないだろうと。長髪でピッチに立つようであれば、国見でなくなってしまう部分もある」
 関取がまげを結うように、読売巨人が髭と茶髪を禁止しているように、国見高校サッカー部には坊主が存在し、長髪を禁止している。仮に髪を伸ばしたら、国見が国見でなくなるという危機感もある。
 では、部として築き上げた伝統は、サッカーという競技の観点からすれば、どのような利点があるのだろうか。
 高橋はまず、競技に対しての集中力、をあげた。
「生徒達は、髪が長いとそっちの方に神経がいってしまいますね。整髪料をつけて整えてお洒落をしたり、手入れをすることが必要になってきますよね。ただ、坊主だとその必要はないですよね。その分競技に集中できる。髪が長いと切らないといけないけれど、坊主ならバリカンがあればいい。経済的にも楽ですよね」
 国見高校の練習は、絶対量として多い。朝練習は6時から始まる。授業後は16時から19時半まで練習して、寮だと22時半に消灯する。土日は一日中、9時から16時もしくは17時まで、練習試合も交えて行っている。練習時間が長いから、髪を切りに行く時間もない。坊主にするときは、部員同士が寮で頭を剃りあっている。
 練習する時間を削り、サッカーを疎かにしてまで髪を整える必要はない。生徒がサッカーに集中できる環境を作りたい。無駄なものをそぎ落とし、サッカーのみに向き合う時間を増やす。お坊さんが世俗からの離脱の意味で髪を剃ることと、極めて近い理由が存在している。
 また、団結の強さ、にも影響している。
「例えば、髪を五厘にしたからと言って、選手が技術的に上手くなるわけではないですよ。しかし、チームとして、意思を統一することに繋がってくるかもしれないですね。髪を伸ばしたいけれども、伸ばさないという共通理解を作る。一つの目標に向かって団結して、頑張ろうっていうところに繋がっていくと思います」
 堀川も同様の理由をあげた。
「協調性を養う一環として、坊主ですね。これは日本的な考えなのかと思います。海外だとチームを強くするために、個々の選手の力を伸ばすと思うんですね。でも日本だと、部活動に関しては3年間同じ場所、同じ仲間なので、まずは統一を図らないといけない」
 国見高校出身の堀川は、実際に選手としてグラウンドに立っている。生徒からすれば「強制であることは否めない」という事実を経験したうえで、坊主であることの利点を理解している。
「坊主にすると、まず人の目につくじゃないですか。人の目につくことによって、人前に出ることに対して臆する気持ちはなくなりましたね。だから、選手権など人の目につくところに全員で出ると、団結力がでてくるんですよ」
 当然、プレーにも影響が出てくる。
「僕達は自分たちのことを、百姓サッカーと言っていたんです。農民が一揆を起こすのと同じ意味合いですね。みんなが全員で攻撃して全員で守る。その意識というのはチーム力。つまり、統率力ということですもんね。その意識を植え付けるために、小嶺さんが坊主頭にしたんじゃないかと思うんです」
 高橋、堀川の話から坊主にする利点として、競技への集中、団結の強さ、の二つがあげられた。坊主という髪型は、技術面を向上するための補助の役割を果たしている。
 しかし、坊主という髪型自体を、全ての生徒たちが好んでいるわけではない。今でこそ坊主で、その魅力や利点を知っている堀川も、当時、ビジュアル的には好きではなかったという。他の部員に関しても、「本音の部分ではしたくなかったのでは」と思っている。  
 現在、FC琉球に所属する永井秀樹も、国見高校出身である。
 永井はプレーからも容姿からも、39歳という年齢は想像できない。沖縄の太陽で焼けた浅黒い肌に、より金に近い茶色の髪を短くして整えている。
 「そりゃ、坊主は嫌だったよ。ありえない」
 永井も坊主は好んでいない。 
 だが、永井も、堀川も、嫌ではあるものの坊主にして、国見高校サッカーに入部している。理由は一緒であった。「国見高校でプレーしたい」からである。国見高校で坊主にしてプレーするか。髪型は自由な他校でプレーするか。二人とも前者を選んだ。強い国見でプレーしたい。上手くなりたい。レベルの高いサッカーがしたい。サッカー選手としての向上心と願望は、坊主に感じる抵抗と嫌悪を、優に勝るものであった。
 国見高校に入る生徒でも、永井や堀川のように坊主のビジュアルに抵抗を覚えていた生徒もいる。むしろそちらの方が多数派である可能性が高い。坊主が嫌で、国見への入学を拒否する人もいる。また、OBのJリーガーをみれば、どの髪型が好まれ、好まれていないかがわかる。
 それでも、坊主は続いている。
 理由は、ひとつに高橋が述べた伝統の力である。他校ならまだしも、国見であるから変えない。強さの象徴でもある伝統は、小嶺が去った後も、監督として守らなければならない。指導者側として考えても、利点はある。そして、もうひとつ。
 部活特有の縦社会、である。
 高橋は言う。
「昨年度に卒業した生徒に選手権の後、来年から髪を伸ばさせようかなと言ったんですよ。そしたら生徒達が『先生、それはやめさせてください』と。普通だったら、別にいいんじゃないですかって言うんだけど、『自分たちが坊主だから坊主でしょ』って。自分達が卒業した後に、長髪とかになると嫌なとこもあるじゃないですかね」
 坊主の精神面での役割を「本当に強い奴らなら、坊主にしなくても強い」と言い、仮に高校の監督になったならば「髪も服装も生徒に全て自由にやらせ、考えさせる」という永井でさえも、母校の国見高校に関しては、坊主でないといけない、と言っていたという。
 頑張った。耐えた。抑制した。自分達も坊主だから、お前達もな。先輩と後輩が築く関係も、坊主が続いている理由である。
 また、部外からも国見の坊主を賞賛する声が上がっている。昨年度、2年ぶりに高校選手権に出場した際、全国から「青と黄のユニフォームで坊主頭の選手が走ったときは嬉しく思いました」という手紙が多数寄せられている。
 高橋は、やめてもいいと感じる部分はありながらも、国見にとって坊主は欠かすこのできないものだと思っている。
「国見にとって、髪型はユニフォームの一つなんですよ。青と黄色の上下のユニフォームを着て、練習で焼けた黒い肌で、坊主頭。どれ一つひとつが欠けても国見ではないんです」 
 高校サッカーのなかでは、少数派となった坊主頭も、国見ではこれからも続くだろう。
 根拠ははある。
 髪に気を使わなくてもいいし、団結力や統率力もつく。そして、何より、国見高校サッカー部だからである。

[塾生]西本匡吾



コメント(5)

より2011年5月22日 8:44 PM 

伝統等の理由はよく分かります、非常に大切なことですから。ただここまで衰退したチームが伝統と言ってもそれにただすがっているだけとしか理解されないでしょう、私の意見ですが大久保等の年代は一昔前ですよ。今重要なのはいかに環境等に順応するかです、伝統(ブランドになっていれば良いですが)・・・はすの次ですね。おまけにブランドとはその世界でほんの一握りです、国見は一昔前のブランドです。そう思わないですか?堀川コーチ等もあまりにも実績が出ないのでそれにすがる他ないのでしょう、よく考えてチーム作りをしてください。子供たちの将来があるのですから、昔ではないですこれからをどうしていくかなのです。再びブランド化する為に何が必要・不必要かをもっと近代的な思考で推し進めていく事が必須だと感じております。皆さんいかがでしょうか?私は強い国見を純粋に見たいのです、それだけです。

こころ2012年1月5日 9:45 AM 

毎年生徒が入れ替わる高校サッカーで、20年間第一線で戦い続けたことさえ奇跡なんです。今は過渡期で、色々な意味で変革が求められているのかもしれないけど、いずれ復活する日は必ず来ると思います。時代が変わったの一言で片付ければ簡単なのだけれど。チームにはスタイルがあってしかるべきだし、全ての高校がバルサの真似事をしなくても良い。例えばイングランドのサッカーを嫌う人は多いけれど、あれはあれ自体が伝統です。国見も流行名流されることなく、愚直にそこを目指すべきだと思う。その変わらないスタイルに価値を見出す生徒は一定数必ず存在する。

赤塚慎也2012年3月14日 9:51 PM 

何年も前ですが、夫が都道府県を越えて異動になっていました。
いわゆる普通の転勤ではなく(元々転勤のない職種です)、リストラ目的の左遷みたいなものでした。
夫以外にも何人かの対象者がいらっしゃいました。

夫はそれでも前向きに成り済ましていました、
その姿を見ていると感謝の気持ちが涌と同時に、恥ずかしながら大の大人の男の人とはいえいじらしさも感じて涙が出ました。
赤塚慎也(売国奴)

ジェーン2012年10月9日 10:39 PM 

息子が来年国見に行く予定です。今進路をチーム監督と話してる最中ですが、親としても息子としても国見を目指すことにほぼ決めました。当初はミーハーで今九州トップの大津・・と言っていたのですが、大津は言い換えればJのユースみたいな高校だと数度練習参加して少しがっかりしました。部員150名でも監督に覚えてもらえるのは体育コースに見事入学できた40名程度・・後は、目もくれてくれないそうです。受験が前期後期と分かれており、前期が他県で言う推薦で試験はサッカーのセレクション、後期は学力検査ですが、そこでも試験後セレクション、体育コースから外れた人は、寮にも入れず普通科に進み別の下宿を探し3年間よほどのことが無い限り、トップチームには呼ばれない・・と熊本のある方からお聞きしました。確かに近代サッカーでありチーム自体は強いです。ほぼ出来上がった選手をよりすぐって作り、勝つことを目的とするか、誰でも底からレベルアップをしてチームを作り、人間性社会性、生涯スポーツを愛する精神を養わせる指導をするか・・・。息子はまだ未完成です人間性、社会性を重視し自己責任を持って好きなことに没頭する・・。とても良いと思いました。いつかは指導者は変わるものでも小峯魂が代々受け継がれ伝統となるものだと思います。衰退とも書かれていましたが、勝ちだけにこだわればそうかもしれませんが、されど国見高校です。勝ち負け以外の大切なものを学べるような気がします。社会にでてからの国見出身の子に悪い評判を聞くことはほとんどありません。サッカーについてもいい伝統を伝統を受け継ぎながら、また復活するときがくると思います。

マックス19882013年4月27日 1:56 PM 

坊主頭の伝統に合理的な理由はいらないように思います。たとえば、東京の私立中学・高校などでも伝統のある男子校はいまだに学ランが多い。古いからといって、彼らは他の多くの新興私立校が採用しているブレザーに変えたりはしません。それでは学ランを通す合理的な理由はあるのか。恐らくそのようなものはないのだと思います。それと同様ではないでしょうか。坊主頭に誰も納得する理由などないけれど、そうした伝統を受け入れても国見でやりたい、と心から想う選手が来てくれればいいのではないでしょうか。後付けで無理やり理由をつけてはいけないし、理由を見つける必要もないと思います。

しかしこうした外形的な伝統の継承と、競技力の向上にかんする話は次元が違います。専門家ではないのでわかりませんが、恐らく高校サッカーの世界で高い成果を出すのは一昔前とくらべて相当難しくなっているはずです。つまり高度化している。そこで結果を出し続けるためには、何が必要なのか。少なくとも過去の成功体験にこだわっていてはダメかもしれません。成果が出ていなかれば、思いきって変革する勇気が必要です。指導者に言われて受身の姿勢でひたすら厳しい練習をするだけではだめで、自分の頭で深く考え課題を見出し、周囲のメンバーと協調しながら厳しい練習を課していけるような、そんな知的で成熟したアスリートを養成しなければならないような気がします。時代はそんな選手(若者)を求めているし、そのようなマインドを持った選手が高校を卒業してからも多方面で活躍してくれるように思うのです。これが教育の一環としての高校スポーツの目的かもしれません。

だいぶポイントがずれてしまってすみません。いちファンとして国見高校のさらなる発展を期待しております。

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