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  • 2010年4月15日

[プレミアリーグ男子ファイナル]男の中の男

会場に入ってみると、なにやら空気が違う。
 
 慌てて周りを見渡すと、男が少ない。目に付くのはほとんど女性である。健全男子である私にとって、もちろん置かれた状況を嬉しく思わないわけがない。ないのだが、しかし圧倒的な男女比がある会場に足を踏み入れたら、さすがにアウェーな気分になることもまた確かである。

 4月11日、東京体育館で行われたのはパナソニック・パンサーズと堺ブレイザーズのどちらかが優勝チームとなる、バレーボール・男子Vプレミアリーグファイナルであった。

 個人的にはバレーと言われ、思いつくのはまず女子だろうと考えていただけに、男子でここまで黄色い声援が多いとはちょっと予想外だったものの、多少の動揺を抑えて、体育館の3階にある自由席に座ってみる。すると会場全体を俯瞰することができ、とても見やすいことに加え、イスも野球やサッカー、ラグビーなどのスタジアムにある鉄でゴツゴツしているのではなく、映画館のようにクッションが入っていて座りやすい。雨に濡れる心配がないからできるのだろうが、尻の痛みに耐える心配なく観戦できることは何にせよ良いことである。

 ここまでで、もうお分かりだと思われるが私は実際、生でバレーを見ることは初めてである。

 しかし初めてだからこその、新鮮な体験というのはどこでもあるもので、イスの座り心地もそうであるし、見慣れた人からすれば当たり前だろと思うことも案外新鮮だったりする。

 初めて見たコートは、イメージしていたより遥かに小さく、初めて見た選手は思っていたより遥かに大きく、そしてたくましかった。

 185センチの兄がいることもあり高身長は見慣れているはずだったが、それでも桁外れに大きかった。しかもただ大きいというより、デカかったといった方がイメージは伝わりやすいかもしれない。

 とは言え今まで直接見に行ったことは無かったものの、テレビで日本代表の試合はちょくちょく見ていたから、選手の顔も多少はわかる。

 例えばパナソニックの5番山本隆弘、代表のエースを長年務めていただけに、名前も顔も知っている。今年度加入した15番の福澤達哉はどこかのテレビで取り上げていたのを見ていた。黄色い声援を受けていることがちょっと羨ましく思う。

 中でも3階席からもわかる一際大きなアクションで、見るからに気合が入っている選手がいた。

 堺の石島雄介である。

 テレビで見たことのある方も多いであろう、代表でスパイクを決めて叫びまくっていた選手である。テレビを通しての熱い男のイメージのまんまで、若いのに若者っぽくない風貌から、なるほどゴッツという愛称もしっくりくる。

 選手の顔を確認しながら眺めていたアップも終わり、いざ試合が始まったもののパナソニックや堺ではなく、バレーを見に来ていたのでただ漠然と観戦していた。しかし目の前でかくも大きなコントラストを見せつけられると、体内に染み付いたものが片方に寄り始めていた。

 チアリーダーがセット間にパフォーマンスを行い、スタンドでの応援も女の子が先導しているパナソニックの応援は華やかで、嫌いじゃない。いや、嫌いうんぬんよりも、むしろ好きな部類である。だが実際はピンクレディーのUFOや荻野目洋子のダンシング・ヒーローが応援に取り入れられていて、コミカルな動きなおっちゃんが指揮する堺に親近感が沸いてきてしまう。

 両チームの助っ人外国人を比べても、痩身のジョンパウロ・タヴァレスよりも筋骨隆々で、K-1で活躍するエベルトン・テイシェイラの髪を短くしたようなエンダギ・エムブレイに男らしさを感じていた。

 しかし何よりも黄色い声援である。周りからの福澤選手~とか山本さ~んとかの声援を聞くと、80年以上の歴史をもつ男子校で高校生活を過ごした我が身からすると面白くないわけである。
 
 はっきり言えば嫉妬である。
 
 声援を聞くたびに今はスマートだとかクールだとかがもてはやされているが、結局大事なのは熱さだろと心の中だけで強がってみることを忘れない。
 
 ただ、パナソニックにも熱い男がいないわけでもなかった。

 清水邦広である。

 ゴリと呼ばれる愛称通り、左腕から繰り出されるスパイクは見るからに重そうであり、スパイクが決まり叫ぶ姿は、見ているものを熱くさせる何かがある。
 
 しかしチームの雰囲気も関係しているのか、どうも違う。対戦相手が堺だったこともあるのか何か物足りない。いかにもスタイリッシュなチームにおいては異色に映る存在も、堺と比べると無骨な雰囲気は出てこない。

 やはり男は黙ってゴッツである。

 何も考えずに見始めていた試合も嫉妬というチャラ男にはわからないような、負の要素によって1セットが終わる頃には完全に堺に肩入れしていた。ゴッツやエムブレイの大砲のようなスパイクが決まれば、よおぉしと思わず拳を握りながら声が洩れる。彼らの叫びは心を熱くさせてくれ、微妙な判定でアウトになった時など、入っているだろと天を仰いでしまっていた。

 そして、第3セットのマッチポイントである。

 エムブレイよ、決めてくれ。そして叫んでくれ。心の中で祈った。
 
 叫び声は上がった。雄叫びだった。

 3階席でも聞こえた気がするほど、拳を突き上げながらの体全体から発せられた雄叫びだった。

 しかし雄叫びを上げたのはエムブレイでも、ゴッツでもない。

 清水だった。
 
 エムブレイが大きな体を弓のようにしならせて放ったスパイクは、清水の両手により堺のコートにはじき返された。
 
 試合を制したのは2季ぶり、3度目の頂点に立つことになるパナソニックだった。
 
 結果だけ見れば3セットを連取したパナソニックの圧勝なのかもしれない。ただ2、3セットともデュースになりもつれていたことに加えて、レギュラーシーズンでは堺が4戦全勝している。もし堺に少しの運があれば勝者は逆になっていてもおかしくなかった。
 
 試合後ベンチでエムブレイがうな垂れていた。表彰式の壇上に上がったゴッツは、涙を堪えているようだった。
 
 男の涙は、心に響く。

 ゴッツ、もっと叫んでくれ、もっと吠えてくれ。それが来年でも再来年でもいい。
 
 声にならない叫びだった。

(小谷紘友=文)

投稿記事, 日本一決定戦

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