[スポーツライター] 金子 達仁
【スポーツニッポン】本田が証明“5大リーグにこだわるな”
巻がロシアへ。高原は韓国へ。ここにきて元代表選手の海外移籍話が取り沙汰(ざた)されている。抜かれるばかりで大丈夫なのか、なぜ大物外国人の獲得に成功したというニュースが聞こえてこないのか。いささかの不満はあるものの、同時に、隔世の感を覚えてもいる。
ついこの間まで、日本人にとっての海外は、ごく限られた国でしかなかった。イタリア、スペイン、イングランド、ドイツ、フランス。相馬や小林のような例外はあったものの、海外とはJリーグを卒業して向かう場所であり、ゆえに欧州5大リーグと呼ばれる国への移籍だけが、卒業後の場所として相応(ふさわ)しいといった認識が、ファン、選手、メディアの間にはあった。
それが間違いだったとは思わない。だが、5大リーグへの移籍は、世界中の選手にとっての憧(あこが)れでもある。門は相当に狭く、もぐりこむのは簡単なことではない。そして、いまの日本人選手に最も欠けているのは、才能でも経験でもなく、異文化の中でも自分は生きていけるという自信ではないかとわたしは思う。
5大リーグにこだわる必要は、ない。
幸い、そのことは本田の成長によって証明されつつある。飛躍のきっかけをつかんだのは、オランダの2部だった。欧州のトップレベルとは言い難いリーグ、チームの中で、それでも彼は何物にも代えがたいものを手にした。新天地として選んだロシア・リーグも、欧州トップクラスに比べればレベルは明らかに落ちる。だが、「入れていただけますか」という態度で5大リーグに向かった多くの日本人選手と違い、本田は必要とされてロシアに渡った。そのことが、彼をさらに大きくした。
巻にしても高原にしても、請われての移籍であることは間違いない。立場としては、挑戦する側というよりも頼られる側となろう。戦うのは、メンバーから外されるのではという恐怖ではなく、仲間を勝利に導かなければという重圧である。巻はもちろんのこと、ブンデスリーガでの経験が豊富な高原にしても、海外でこうした立場となるのは初めての経験に違いない。
得難い経験である。
結果を出して当然という重圧は、選手を成長させるエネルギーとなる。ドゥンガも、ストイコビッチも、Jでプレーしながら代表の中軸を担った。
当時のJのレベルが、欧州5大リーグに比べてはるかに下だったのは、言うまでもない。だが、そんなリーグであっても、個人として世界と伍(ご)していくことは可能なのだということを、彼らの人生は教えてくれる。
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[スポーツライター] 金子 達仁- Tatsuhito Kaneko
- 1966年1月26日、神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部勤務を経て、95年にフリーとなる。著書に「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」「敗因と」「泣き虫」などがある。
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