[スポーツライター] 金子 達仁

  • 2012年2月7日

[金子達仁]世界で戦うため、この敗北は感謝

【ロンドン五輪アジア最終予選C組 シリア2-1日本】永井に尽きる、で言い切れていたはずの試合が、土壇場で覆ってしまった。不安定な国情は、時にサッカー選手たちに大きな力を与えることがある。なでしこのW杯優勝がそうだったように、この日のシリアには、何か見えない力がついていたのかもしれない。

 前半の日本は最悪だった。同情すべき点は山ほどある。清武がいなかった。大津も戻れなかった。グラウンドは荒れていて、おまけに開始早々に山崎がアクシデントに見舞われた。自分たちのサッカーをやるにはあまりにも難しい条件が揃(そろ)っていたことは間違いない。

 だが、それでもあえて言わせてもらえば、前半の日本は、そもそも自分たちのサッカーをやろうとすらしていなかった。状況に合わせたプレーをするのはサッカー選手にとって重要な資質のひとつだが、この日の日本は、状況を重視するばかりに、自分たちの本質までをも見失ってしまっていた。試合後、関塚監督は「前半は両チームともほとんどプレーしていなかった」と振り返ったが、わたしの意見は違う。シリアは、多少なりともプレーしていた。日本は、まったくしていなかった。グラウンド状態の悪さに過敏に反応し、持ち前のサッカーを放棄してしまったのは明らかに日本だった。

 それだけに、前半のロスタイムに永井が決めたゴールの意味はとてつもなく大きかった。勝つためにはいい内容で試合を運ばなければならないのはもちろんだが、時には、内容が悪くとも結果だけは拾いたい時もある。あれほどまでにリズムを失い、あれほどまでに押し込まれながら、それでも引き分けでシリアの夢を断つことができていれば、ヨルダンでの経験はロンドンでも大きな武器となるはずだった。どんなに押し込まれても、どんなに思うようにいかなくても、自分たちは生き残ることができる。そんな確信を持って世界で戦えることになるはずだった。

 ただ、不思議なぐらいこの敗戦を嘆く気持ちがわいてこないのも事実である。

 五輪は、W杯と違う。サッカーの世界において、なんのために五輪を目指すのかと言えば、W杯で結果を残すため、である。結果がすべてとなるW杯予選でこの結果に終わったのであればうちひしがれもするが、これはあくまでも五輪予選である。今回、若い選手たちが血の涙を流したくなるほどの屈辱を味わったことは、長い目で見ればとてつもないプラスである。権田は、二度と同じミスを繰り返すまい。永井は、大迫は、いままで以上の集中力で決定機に臨んでくれるはずだ。世界を目指す戦いでは、日本の常識では計れないことも起こりうる。そのことを、この若さで経験できたことを感謝する日が間違いなくやってくる。

 しかも、ここでシリアに並ばれたことによって、彼らは残り2試合、単に勝つだけでなく、得失点差の勝負をも演じなければいけないことになった。選手にとっては過酷だが、しかし、これは日本のサッカー界が久しく味わってこなかった経験である。

 ホームでの戦いから察するに、次の相手マレーシアも簡単な相手ではない。ただ、おそらくは時差の関係で、日本はシリアよりも数時間早くキックオフを迎えることになろう。少しでも多くのゴールを奪い、シリアにバッドニュースを届けたいとなると、そうでなくても簡単な相手ではないマレーシアはいよいよ危険な相手となってくる。

 だが、それが財産となる。

 アジアのサッカーが世界で勝てないのは、アジア予選のレベルが欧州や南米、アフリカに比べると厳しさにかけるからでもあった。しかし、今回のシリアは、そしてこれから条件つきで戦うことになるマレーシアは、競り勝つことによって世界で戦う上での自信を与えてくれる相手である。

 この敗北を、ゆえにわたしは感謝する。

[スポーツライター] 金子 達仁



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